Netflixで配信中の映画『ホムンクルス』(2021)を観ました。
記憶と社会的地位を失った男が、頭蓋骨に穴を開ける実験的な手術を受けたことで、人の心の歪みが「異形」として見えるようになる——という、山本英夫の人気漫画を原作にしたサイコミステリーです。
綾野剛主演、『呪怨』シリーズの清水崇監督ということで、気になって観てみました。
※物語の核心(結末)にも触れています。未見の方はご注意ください。
■作品概要
2021年公開の日本映画。山本英夫の同名漫画(『ビッグコミックスピリッツ』にて連載、累計発行部数400万部)を原作とした、ファンタジー・サイコミステリーです。上映時間は約119分。
主人公・名越進を演じるのは綾野剛。研修医の伊藤学を成田凌が演じています。監督は『呪怨』シリーズなどで知られる清水崇です。
劇場公開の後、Netflixで独占配信されました。
■あらすじ
過去の記憶と感情を失い、高級ホテルとホームレスのいる公園の狭間で車上生活を送る名越進。
そんな彼の前に、研修医の伊藤学が現れます。
「頭蓋骨に穴を開けさせてほしい」——70万円と引き換えに、第六感が芽生えるという実験的な手術「トレパネーション」を持ちかけるのでした。
手術を受けた名越は、右目を隠して左目だけで人を見ると、人間が異様な姿に変貌して見えるようになります。
伊藤はその異形を「ホムンクルス」と名付け、それは他人の深層心理が視覚化されたものだと説明するのでした——。
■心の傷を、異形として描くという表現
この映画でまず印象的なのが、「ホムンクルス」という視覚表現です。
人のコンプレックスや欲望、トラウマが、単なるモンスターとしてではなく、その人物の心理的な傷を象徴する姿として現れます。
砂でできた人物、ロボットの姿をした人物、歪んだ形状の人体——それぞれが、抱えている痛みや脆さを象徴的に表現していて、ただ怖いだけの異形ではなく、どこか悲哀を感じさせるデザインになっていました。
例えば、名越が出会うヤクザの組長は、名越の目には「ロボットの鎧をまとった、泣いている子ども」として見えます。
強面を装いながらも、幼い頃に抱えた罪悪感や弱さを隠し続けてきた——その内面が、そのまま姿になって現れるのです。
■綾野剛・成田凌、俳優陣の演技力
俳優陣の演技力は、素直に良かったと感じました。
綾野剛は、記憶と感情を失った空虚な男から、他者と関わる中で少しずつ感情を取り戻していく過程を丁寧に演じています。
成田凌も、飄々とした態度の奥に孤独を抱える伊藤という役柄を、独特の存在感で演じていました。
綾野剛が出演する作品は面白いものが多い印象があるのですが、今回はその中でも少し評価が難しい一本でした。理由は、演技力ではなく、脚本・展開の部分にあります。
■前半は楽しめたが、後半は少し置いていかれた
正直な感想として、前半はホムンクルスという設定の面白さもあって楽しめました。
ただ、後半に入ると展開が少しわかりにくくなり、失速してしまったように感じました。
特に、なぜ名越が記憶を失っていたのか、その理由がすっきりとは伝わってきませんでした。
調べてみると、これは私だけの感じ方ではなく、多くの視聴者が同じように感じている部分のようでした。
本作は、物語の答えを明確に示さず、多くを観客の解釈に委ねる作りになっており、「わかりにくい」という感想が出やすい構成だったようです。
■名越の過去に隠されていたもの
物語の終盤、焦点は他人のホムンクルスから、名越自身の内面へと移っていきます。
かつて優秀な会社員だった名越には、過去に付き合っていた女性がいたようで、その存在をめぐる深い罪悪感が、記憶喪失の背景にあることがうっすらと見えてきます。
やがて名越は、その女性によく似た、同じく記憶を失った女性と出会い、彼女と過ごすうちに、自身のトラウマと向き合っていくことになります。
ただ、この過去の全貌がはっきりと説明されるわけではなく、観客それぞれの解釈に委ねられる部分が多いのも事実です。
私自身、ここがすっきりしないまま終わってしまった、というのが正直な感想です。
■伊藤自身が抱えていた孤独
物語の狂言回しである伊藤にも、実は深いコンプレックスがありました。
高名な外科医である父親に認められたい、という等身大の承認欲求。
誰よりも「自分を見てほしい」という孤独が、彼が名越を使って実験を繰り返した本当の動機だったのです。
そして物語の最後、伊藤自身が自らの頭に穴を開け、新宿の街を見下ろしながら笑みを浮かべる場面で幕を閉じます。
それが救いだったのか、それとも破滅だったのか——明確な答えは示されないまま、観る者に委ねられる終わり方でした。
■こんな人におすすめ
- 人間の心理や内面をテーマにした作品が好きな人
- 綾野剛・成田凌の演技をじっくり観たい人
- 結末をすべて説明されない、余韻の残る作品が好きな人
- 原作漫画を読んだことがある人(答え合わせとして)
逆に、すべての謎がすっきり回収される作品を求める人には、後半でモヤモヤが残るかもしれません。
■まとめ
私の評価は★★★☆☆(5点満点中3点)です。
ホムンクルスという視覚表現の発想と、綾野剛・成田凌をはじめとする俳優陣の演技力は、素直に見応えがありました。
人のコンプレックスやトラウマを、単なるモンスターではなく悲哀を帯びた姿として描く表現には、独自の魅力があります。
一方で、後半にかけて展開がわかりにくくなり、特に主人公の記憶喪失の理由がすっきりと伝わってこなかったのは、正直に言うと残念な部分でした。
前半の勢いのまま突き抜けてくれたら、もっと満足度の高い作品になったかもしれません。
Netflixで配信中のほか、Netflixに入っていない方はAmazonプライム・ビデオでのレンタル視聴も可能です。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

